俺の恋人。
左の目が大きく、髪は肩にはつかない程度の黒髪ボブ。
身長は俺より頭半分低い。モデルのようにスラリとして黒と赤が斜めにデザインされたワンピースが気にいっているらしい。最近一緒に住み始めた。
口数は少ないが家事をよくこなす。
ある日、クリームパスタなるものを作ってくれた。
俺がくるくると麺をフォークに絡ませるのを笑顔で見ていた。
またある時はクッキーを作ると言って台所に立った。
しばらくしてから鼻を突く焦げた匂いがリビングに漂ってきた。
失敗したようだ。
いかにも初心者のようで、1冊の本が開いたまま台所に置いてある。
窓からは昼の明るい光が差し込む。
そのせいなのか小麦粉のせいなのか台所がやけに白く見える。
俺が「焦げたみたいだね」と言うと、両手を上げてボタンを押さずにオーブンを開ける。
きっちりと並べられた丸い生地。
奥の方から黒くなっている。かすかに煙も見える。
彼女はそれを素手で取ろうとした。
俺は「熱いよ」とその手を止める。手は冷たかった。
少しドジなタイプなんだろうか。
ある時は、公園にいた猫に近づきその頭を撫で始めた。
彼女の体より二回りは小さい丸い頭。
そのフサフサに何度も彼女の冷たそうな指を絡める。
俺にとっては彼女がその猫のようなものだ、と我ながら横を向いて笑った。
街を歩くと、通り過ぎる人が彼女を見る。
俺は見る目がある。
春の花?俺にはわからない花の模様のワンピースを着たマネキンがいた。
服が気になるのかショーウインドウ前で彼女は立ち止まった。
一対一で会話でもしているんだろうか。
2人の静寂な時。
彼女が透明なガラスに手を触れるとカチ、と小さい音がした。
「マネキンより君の方が綺麗だ」
俺は鼻を指で擦った。
彼女と目が合う。
左目は丸いまま動かないが、彼女が笑っているのがわかる。
マネキンには目がない。動かないし表情はない。
その後ショッピングモールで彼女の買い物に付き合った。
途中ソファでぐったりする男共をよく見た。
俺も初めて気持ちがわかった。
〇〇〇〇〇年〇日
P.S.
数年後にはロボットと呼ばれるものと婚姻が認められれば思う
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